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JISART
日本生殖補助医療標準化機関

JISARTはわが国の生殖補助医療の質向上とその水準維持を達成すべく結成された生殖補助医療専門実地医家の独自の団体です。

当院は、JISART(日本生殖補助医療標準化機構)のメンバーです。


当クリニックは2006年度のJISARTの認定審査に合格しました。(「認定審査」ついてはこちら


 

 顕微授精の適応は「難治性の受精障害で,これ以外の治療によっては妊娠の見込みがないか極めて少ないと判断される場合」であり(日本産科婦人科学会,1992年)、体外受精胚移植を行っても受精が得られなかったか得られないと判断される御夫婦実際が対象となります。
 顕微授精の医学的適応としては以下のものが認められています。

  (1)重症乏精子症
(2)精子無力症
(3)精子奇形症
(4)重症精子減少症,精子無力症および精子奇形症の合併症例
(5)不動精子
(6)精巣上体精子あるいは精巣精子による受精
(7)精子一透明帯/卵細胞膜貫通障害
(8)抗精子抗体陽性

男性因子例
対外受精での受精障害例
方法
実施方法
 ・透明帯開孔法
 ・囲卵腔内精子注入法(SUZl)
 ・卵細胞質内精子注入法(ICSl)
 ・問題点または注意事項


(1)重症乏精子症, 精子無力症, 精子奇形症およびその合併例
 精子不良症例のIVFにおける受精率は精液正常例に比べ低値です。精液性状の検査項目である濃度,運動率, 奇形率のいずれの異常も受精率の低下をもたらします。さらに二つあるいは三つの検査項目の異常を認める場合,受精率はさらに低下します。これらの検査項目の著しい低下を示す症例は顕微授精の適応と考えられます。


(2)不動精子の症例
 精子がまったく運動性を有しない場合で,IVFでの受精が期待できないため、顕微授精の適応と考えられます。生存精子と死滅精子が混在しているが,死滅精子の割合が大きい場合やすべて死滅精子(死滅精子症)の場合では,精巣上体精子あるいは精巣精子を用いることになります。特異な例としてimmotile cilia syndromeやKarthagener症候群があります。

(3)精巣上体精子あるいは精巣精子による受精
 無精子症(閉塞性無精子症,非閉塞性無精子症)の場合や,脊髄損傷による射精障害で射出精子の採取が困難な場合では,精巣上体精子あるいは精巣精子を用いて体外受精胚移植を行います。このような症例で, IVFに必要な運動精子を回収することが困難な場合は顕微授精の適応になります。

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(1)精子一透明帯/卵細胞膜貫通障害
 IVF-ETにおいて卵子,精子ともに一見正常であっても受精が成立しないことがあります。これらの症例では精子の透明帯通過障害あるいは卵細胞膜との融合障害の関与が示唆される。その原因として精子の機能的・形態的異常と卵子側の異常が考えられます。たとえば精子先体異常やhyperactivation異常,透明帯異常,精子・卵融合に関与する受容体の異常など双方の異常が考えられ,いずれも顕微授精の適応と考えられます。

(2)抗精子抗体陽性
 妻の抗精子抗体が陽性の場合,あるいはたとえば夫が精管再疎通術を受けた後に抗精子抗体を有する場合も通常のIVFの受精率の低下を示すことがあり,顕微授精の適応と考えられます。


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 正常の受精過程は,射精の後,精子が子宮・卵管を移動する過程で受精髄獲得が誘起され, 引き続いて原形質膜の変化の結果として先体反応とhyper activationが起こります。その結果,精子は透明帯を貫通して卵細胞膜に接着・結合し,精子・卵子融合sperm-egg fusionを起こし,受精の開始となります。
つぎに卵子が活性化activationされ,第2極体の放出と雌雄前核の形成が起こる。活性化には卵子内のカルシウムオッシレーションが必要で,カルシウムオッシレーションに至る刺激伝達系には精子・卵子融合の際のphospholipase Cを介したIP3産生系と精子に存在するsperm factorに関する系とが考えられている。また,卵子内に取り込まれた精子頭部は脱凝縮decondensationする。さらに,卵子の活性化が起こった場合にだけ雄性前核が形成される。形成された雌雄前核が融合し,受精が終了する。顕微授精はこれらの過程のいくつかをバイパスします。

 透明帯開孔法は透明帯に小孔を作ることで,本来ならば先体反応とhyper activationを起こして透明帯を通過する過程をバイパスします。よって精子の機能や運動性が低下している症例でも受精が期待できます。しかし,受精には精子が先体反応を起こすことが不可欠であり,先体反応誘起が起こりにくい精子を持つ症例では有効性が低い事が認められます。
囲卵腔内精子注入法は射精された精子を透明帯の通過までバイパスすることができます。この方法も受精の成立には先体反応を起こした精子が必要であり,注入される精子は先体反応が誘起されたものが良いことになります。しかし,先体反応が誘起されていないと考えられる精子でも,後に先体反応が誘起され受精が可能となるが,先体反応を誘起したほうが対照と比べて受精率が向上したとの報告が多く,先体反応の誘起法にはカルシウムイオノファ処理や卵胞液による処理があります。
 先体反応を誘起させると,一般に運動性が低下(精子原形質膜の障害)するので,精子・卵子融合能をも高める先体反応誘起処理が必要であります。

 上記の2法はいずれも精子の透明帯の通過を補助する技術であり,多精子受精の発生が高頻度に起こりうる。卵細胞質内精子注入法では射精精子を受精能獲得から精子・卵子融合の過程までをバイパスします。
 この方法によれば精子の運動性,精子の卵子との融合能に依存しない受精の成立が可能である。不動精子の場合には死滅精子を注入する可能性があり,受精率,胚発生率が低下します。
 また,精子の運動能が高い精子ほど受精髄,胚発生能が高いことが認められています。運動精子を無処理で卵子内に注入すると,精子原形質膜が正常であるのでそれが精子・卵子相互作用の障害となり受精成績が低下します。卵子内に注入された精子は卵子内で原形質膜が壊されてから精子頭部の脱凝縮を起こし前核を形成します。
 よって,注入前に運動精子の原形質膜に損傷を与え(不動化処理),その後に注入します。ICSIでは精子・卵子融合がないのでICS1後の卵活性化には精子に存在する卵活性化因子が作用すると考えられています。その作用で, ICSIでは精子注入の5-30分後に卵活性化の引き金になるカルシウムオッシレーションが誘起されるが,この現象はIVFでの受精の場合に比べて遅延して発生します。
 また,ICSIの胚盤胞への発生率はIVFと比較して低いが,この遅延の影響については明らかになっていません。


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 顕微授精法の実施にあたっては日本産科婦人科学会の顕微授精法の臨床実施に関する見解を遵守し,「実施施設の」倫理委員会の承認のもとに夫婦のインフォームド・コンセントを得て行います。使用する主な機器は以下の通りです。

(1)倒立顕微鏡
 倒立顕微鏡にノマルスキー微分干渉,位相差,ホフマンなどのコントラスト装置が付いたものが用いています。使用倍率は200-400倍で施行します。
(1)マイクロインジェクター
(2)ニ一ドルホルター
(3)マイクロマニピュレーター
(4)ガラスキャヒラリー

 外径約1mmのガラスキャヒラリーを用いて,滅菌のうえマイクロニードル(卵子保持用ニ一ドル,精子注入用ニ一ドル,マイクロフックなど)を作製する。
 顕微授精に供する卵子は通常のIVF-ETと同じ方法で採取される。ICS1実施直前まで通常の培養液中で培養し,hyaluronidase溶液で卵丘細胞を適宜除去し,さらに先端の細いピペットで顕微操作ができる程度に残っている卵丘細胞を除去します。顕微操作は顕微授精用チェンバー内のマイクロドロップ(緩衝
液を含んだ培養液,シリコンオイルやミネラルオイルで被う)内で行います。

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透明帯開孔法
 それぞれの開孔操作後は媒精し,ただちに通常の培養環境にもどす。精子の処理は通常のIVF-ETに準じます。

(1)Zona drilling
 卵子を保持用ニ一ドルで固定し,細いニ一ドルを用いて酸性液(pH2-3の酸性タイロード)や酵素液を透明帯に吹き付けてその一部を溶解して開孔します。実施によって卵子の損傷が多いと報告されています。

(2)Partial zona dissection
 細いニ一ドルを囲卵腔の比較的広い部位に接線方向に刺入し透明帯を貫通させ,保持用ニ一ドルの外壁に押しつけ透明帯をカットします。

(3)Zona opening
 2本のマイクロフックを用いて透明帯を開孔する。本法の実施には3台のマイタロマニピュレーターを利用します。

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囲卵腔内精子注入法(SUZl)
 卵子を保持し,囲卵腔の広い部位に接線方向に注入針を刺入し,運動精子を数個注入します。注入する精子数については,定まったものはなく,症例ごとに検討しなくてはなりません。多すぎると多精子受精となり,この点にこの方法の難しさがあります。

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卵細胞質内精子注入法(ICSl)
 精子の処理は運動性良好精子回収法を行って回収します。それらの方法で回収できない場合では遠心洗浄濃縮法を行い精子を回収します。緩衝剤を含んだ培養液に回収した精子を浮遊させます。この精子浮遊液でICSIを行うこともあります。
 また,7-8%polyvinyl pyrrolidone(PVP)精子浮遊液をつくりICSIに供することもあります。PVPは精子がチャンバー壁やニ一ドル壁に付着するのを防ぎ,精子の運動性を減弱しICSIを行いやすくする利点があります。PVPの影響については,PVPが受精・胚発生に悪影響を及ぼすという明らかな根拠は示されていません。
 運動精子の尾部を注入用ニ一ドルでチャンバー底に押しつけしごくなどを行って不動化処理を行い,注入用ニ一ドル内に1個の精子を尾部から吸引します。卵子を含む顕微操作用マイクロドロップの中で,第1極体が卵の12時もしくは6時に位置するように卵を保持し,注入用ニ一ドルを刺入する。卵細胞膜を破ったのであれば精子を注入します。細胞膜が破れていないのであれば細胞膜が破れる手応えがあるまで細胞質を吸引のうえ精子を注入します。ニ一ドルを静かに抜去し,卵子を通常の培養液に移します。採卵後、ICSIまで卵子は前培養されます。体外受精時の前培養時間は3-5.5時間が必要といわれていますが,ICSIについては0.5-8時間の前培養時間の差は成績に影響しないと報告されています。
 ICSIでは精子の不動化処理と確実に細胞膜を貫通し精子を注入することがもっとも重要です。以上の方法については、ビデオで供覧いたします。

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問題点または注意事項
 すでにこの方法は本邦においても妊娠分娩例が多数報告され,治療手段の一つとして定着しています。しかし,この方法が生殖細胞をじかに扱う点,そして通常の受精過程での生理的な精子選択を排しICSIの手技者が1個の精子を選択する点で細心の注意を払う必要があります。体外環境が配偶子や胚に及ばす傷害のリスクや受精機能異常を持った精子を選択し受精させるリスクを考慮しなければなりません。特に後者では遺伝的リスクを考慮する必要があります。
高度な乏精子症や無精子症例ではKleinfelter syndromeなどの染色体異常を持つ割合が高い。Kleinfelter syndrome例の射出精子あるいは精巣精子の多くは正常核型でありますが、正常核型男性に比較して異常核型が高頻度に存在することは事実であります。
 高度な乏精子症や無精子症例ではAZF(azoospermic factor)などの造精機能関連遺伝子の異常との関連が指摘されています。例えばAZFでは非閉塞性無精子症例の約10%に微小欠失が認められますが,Y染色体長腕に存在するので,ICSIで妊娠した生まれた男児にその異常が継承されます。それらの関連遺伝子異常のいくつかは検査で確認することができるので、治療前に異常の有無を検査し十分なインフォームド・コンセントを得る必要があります。また,嚢胞性線維症cystic fibrosisは欧米白人に多く認められ、原因遺伝子が第7番染色体長腕に局在し常染色体劣性遺伝を示します。人種差が著明で日本人ではまれな疾患であるが、この疾患は高頻度に先天性両側精管欠損を合併するので、そのような患者では病因遺伝子の異常の有無を治療前に検査することが望ましいと考えられています。

 以上のことより,当医院は以下の点について注意を払いこの治療法を施行いたします。

  (1)患者は法律上婚姻しており,挙児を希望すること
(2)患者は難治性の受精障害があり,この治療以外では妊娠の可能性がきわめて少ないこと
(3)患者は心身ともにこの治療を行える症例であること
(4)患者は妊娠した場合,心身ともに妊娠・分娩・育児が可能であること
(5)実施者は患者に対し,この治療法をよく説明し承諾書をとること
(6)実施者は生殖医学の知識・技術をよく修得した医師で,細心の注意のもとにすべての操作・処置を行い,協力者は本法の技術に十分習熟した者であること
(7)実施者は生命倫理のもとに受精卵を扱うこと
(8)実施者は患者やその出生児のプライバシーを尊重すること

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